センターテスト2018 国語の概評まとめ

 まず、会場で生徒の問題を借りてざっと見た時点での拙評を以下に。

 

 センターテスト 国語、ざっと見の短評。

 やはりというか、やんわり新テストへの橋渡しを試みている模様。ただし大した変更ではない。評論で本文に関連する図を示して、生徒5人に話し合わせ、その議論を縮約したものとして妥当なものを選ぶ、という問題があった。あー、はいはい(せせら笑い)、という感じ。従来型の読解力で対応は可能かと。

 古文では宣長の説を問答形式で展開した歌論を、やや理知的に読む感じ。和歌における「情」と「欲」の在り方とその関係についてだった。いわゆる解釈や心情理解ではなく、古文の読解力をベースにして評論を解く感じ。要約、整理する力が問われるという点では、広義に解釈して「思考・判断」を問うといってもいいのかも。

 近年徐々に進行しているそのあたりのマイナーチェンジに受験生が惑わされていなければ、難易度は標準か、評価によってはやや易。平均は110点台半ばといったところではないか。去年が一昨年から揺り戻しすぎて「難化」だったので、標準に戻しにくるだろうという、ベタな予想のとおりになるのではと思われますです。

 

 次に、各予備校・業者による概評。

 

◯データネット

第1問「現代文・評論」 (50点・標準)  有元典文・岡部大介『デザインド・リアリティ―集合的達成の心理学』による

環境を文化的に「デザイン」し「現実」の意味を変化させ続ける存在としての人間を論じた文章。文体は平易だが、筆者独自の概念や言葉の用法を、叙述に沿ってきちんと読み取れるかどうかがポイントであった。問3で文中の「図」(写真)についての生徒たちの対話の形をとった設問が出題されたのが目を引く。学習指導要領の「言語活動の充実」や、大学入学共通テストで求められる力を意識した出題だと思われる。
第2問「現代文・小説」 (50点・標準)  井上荒野「キュウリいろいろ」

現代の女性作家の文章。短編の全文ではなく、原典の一節からの出題だった。三十五年前に息子を亡くした主人公郁子が、夫の新盆を迎えた時の出来事を描いている。問1は語義の設問。問2~問5は場面の展開に即して主人公の心情を問うもの。いずれの問いも傍線が施されており、昨年のような傍線部のない設問設定はなかった。問6は表現に関する設問。ほぼ例年通りの出題で、本文全体への目配りが求められていた。
第3問「古文」 (50点・やや難)  『石上私淑言』

江戸時代中期の歌論書『石上私淑言』からの出題。歌論の出題は、2009年度追試以来。本文には難しい言葉はないが、内容をまとめながら、論点を整理する力が求められた。問3~問6は、各段落の内容をまとめる問題、全体をまとめる問題からなり、選択肢の違いを理解するのが難しい。和歌を話題とする問題文だが、本文中に和歌はなかった。
第4問「漢文」 (50点・やや難)  李■(とう)『続資治通鑑長編』による (■は壽に「れっか」)

史伝からの出題は2011年度追試以来。ただし内容は、問答によって出処進退と君臣関係のあり方を述べるもので、実質的には最近頻出する論説的な文章である。問1・問2は文脈における文字の意味についての設問で、例年通り。問3・問4は傍線部に同形のくり返しが含まれ、問5は「今」を挟んだ対比的な表現が問われるなど、文章の論理構造を問う近年の傾向を踏襲した出題であった。

 

◯東進

【第1問】有元典文・岡部大介『デザインド・リアリティ-集合的達成の心理学』→やや易化
問1の漢字は、(ア)の「意匠」がやや難しいが、ほかは基本的な問題。問2は、前後を読解すればわかる基本問題。問3は新傾向の問題。問題文に関する図についての4人の生徒の対話が交わされる中、空欄に正しいものを入れる設問が出題された。問4、問5はいずれも3行にわたる選択肢の問題だが、本文ときちんと照らし合わせれば正解できる標準レベルの問題。問6は文章の表現と構成を問う問題。(ⅰ)が適当でないものを1つ選ぶ問題、(ⅱ)が適当なものを選ぶ問題なので、注意が必要である。

【第2問】井上荒野「キュウリいろいろ」→昨年並み
問1の語句の問題は、辞書的な意味で対処できる。「枷が外れる」はやや難だが、本文の内容に即していけば解ける。問2~問4は標準的な理由説明・心情説明問題だが、かなり間違いやすい選択肢になっている。問5は3行選択肢の理由説明問題で、やや難。問6は昨年と同様、表現に関する問題だが選択肢に指摘された箇所を探すのに時間がかかり、やや難。

【第3問】本居宣長『石上私淑言』→やや易化
問1は例年通り部分訳の問題。(ア)は前後の文意も考える必要が少しあるが、(イ)(ウ)はほぼ単語の知識で解ける。問2の文法問題は新形式の問い方で、傍線部に関する文法説明のうち不適当なものを選ぶ問題。助詞が関わる問題は2016年の「の」の用法を問う問題があったが、それ以前の出題にはほぼ見られない新しい傾向と言える。問3は、「問ひて云はく」に対する答である「答へて云はく」の後半「恋はよろづの……」に注目して選択肢と照合する。問4は、「答へて云はく」の最初の5行に注目して選択肢と照合する。問5は傍線部がないが、注目すべき箇所が「さはあれども」から始まる段落と分かれば正解は得られる。問6も傍線部はないが、例年のような本文全体を見わたす合致問題ではなく、本文1枚目(30ページ)最終行の「色を思ふも本は……」と、最終段落の内容を選択肢と照合して解く問題であった。

【第4問】李とう『続資治通鑑長編』→やや易化
問題文は187字で、ほぼ平年並み。設問数が昨年度から6に戻っている。マーク数も昨年同様8であった。本文は注も多く比較的読みやすいものであった。問1は漢字の読み方ではなく、「議」「沢」の意味の組合せ問題。問2は昨年同様短い傍線部の解釈の問題。問3は、返り点と書き下し文ではなく、書き下し文と解釈の組合せ問題であった。問4は2ヶ所の名詞と述語の主体の組合せ問題。問5は理由説明、問6は内容説明問題で、概ね例年の傾向の範囲であった。

 

河合塾

現代文(評論)の本文で図が付され、空欄補充という新傾向の問題が出題された。
現代文は易しくなったが、古文は難化し、国語全体としては昨年並み。

<現代文>第1問(評論)は、さまざまな具体例を挙げながら、現実をデザインするという人間の本質について論じた文章が出題された。文章には、2つの図(写真)がついており、また問3ではその図に関連して、生徒の話し合いが紹介され、そのうちのひとりの発言が空欄補充問題となっているという、これまでにない設問になっている。第2問(小説)は、現代の女性作家による短編小説の一節から出題された。昨年・一昨年は古い時代の小説からの出題だったが、それに比べればかなり読みやすい文章である。
<古文>問答体で書かれた歌論であった。
<漢文>昨年度は日本漢文が出題されたが、中国の文章からの出題に戻った。語の読みの問題は出題されなかった。
難易度 昨年並み
<現代文>第1問(評論)は、昨年より400字あまり長くなっているが、全体としては読みやすく易しくなった。第2問(小説)は、傍線部前後の内容を根拠にして作られたと思われる設問が多く、全体として易しくなった。ただし問3・問5では、誤りである根拠がさほど明確ではない選択肢がある。
<古文>本文は歌論ということもあって、昨年の『木草物語』よりも解きにくい。特に問4・6は内容についての説明問題であるが、筆者の主張を正確に把握して、正解の根拠を見極めるのが難しい。
<漢文>内容はやや抽象度が高かったが、本文・設問とも難易度に変化はなく、昨年並みと言える。

出題分量
第1問(評論)は、昨年より400字あまり長くなっており、これまでのセンター試験で最も長いものであった。第2問(小説)は、本文量は約4750字で、昨年とほぼ同じ、設問数も昨年と同じであり、選択肢の長さもさほど変わってはいない。第3問(古文)は、本文量が1300字ほどで、昨年より約150字減少した。第4問(漢文)は、本文が187字で11字減少、設問数・マーク数とも昨年と同じであった。

出題傾向分析
<現代文>第1問(評論)は、昨年は科学論が出題されたが、今年は「文化心理学」を論じた文章が出題された。本文に図が付されており、また設問でも生徒の話し合いが紹介され、空欄補充問題が出題されるなど、入試改革の方向性を踏まえた出題もみられた。第2問(小説)は、現代の女性作家による短編小説の一節から出題された。昨年、一昨年の問題に比べると本文は読みやすく、設問もあっさりしたものになった。ただし、この傾向が今後も続くとは限らないであろう。
<古文>近世の国学者である本居宣長の歌論『石上私淑言』からの出題であった。本試験での歌論の出題は2001年度以来である。この作品は、和歌とはどのようなものかについて問答体の形式で述べたものだが、本文は、恋の歌が多いことについて、「情」と「欲」という語を使いながら、歌は「情」から生まれるものだからだと結論づけた内容である。特に難しい表現はないが、正確な読解が求められた。昨年は本文に和歌があり設問にもなっていたが、今年は和歌が本文にも設問にもなかった。
<漢文>南宋の李●(とう)の歴史書から出題された。北宋の政治家寇準の宰相就任について、王嘉祐の示した政治的な見識の高さを論じた逸話であった。テーマは漢文としてオーソドックスなものであったが、やや抽象度が高い内容であり、選択肢の正誤判断が難しい問題もあった。設問は、語の意味、書き下し文、解釈、内容説明、理由説明など標準的な出題であったが、語の読みは出題されなかった。 また、書き下し文の問題では、原文に返り点をつけた選択肢は提示されなかった。問5・問6は、本文の記述と照らして、選択肢をしっかり検討する必要がある。

 

 私見では、河合が国語全体の難度をやや見誤っているのではないかと思われる。「昨年並」ということはなかろう。古文は「やや難」とする評が目立つが、そうは感じない。たしかに歌論の出題は久々ではあるものの、さすがに授業、問題演習等で馴染みはあるはず。そして、評論を読解するだけの論理性があれば、求められる知識ハードル自体は高くない方なので、どちらかといえばやや易なのではないかと見ている。和歌解釈や,敬語を含んだ人物関係理解、主語把握を要求される問題よりはましだろう。その点で、古文評は東進が妥当ではないか。

 なお、新テストとの連関の文脈で論じているのは今のところデータネットのみか。他の予備校は新傾向とのみ述べ、それが何に起因するかということにまで言及はない。全体概観の妥当性、大局的な視点等を合わせれば、今年はデータネットが評としては最もまともなのではないかと考える。

 

 平均点の予想は、現時点ではおそらく116点前後といったところ。はて蓋を開けてどうなりますやら。