教材として見る大学入試過去問題(国語)

f:id:pampf:20180311174521j:plain

 

 はじめにお断りしておくこと。

 今回ピックアップするのは、主として大学入試センターテスト後に勤務校で実施した二次対策指導で使用した問題についての感想である。担当講座は地元国立大学(対外模試の全国偏差値でいえば50台後半から60前後)受験者向け。

 また、筆者が勤務している学校は九州にある。生徒は比較的地元志向が強く、国公立大受験についていえば大半は九州内、せいぜい西日本までで留まる。

 以上のような環境から語るため、当然偏りがある。旧帝大受験、全国有名私大について関心のある向きは特に何の参考にもならないので予めお断りしておく。

 それから、概評なので、とにかく評がぼんやりしている(笑)

 

九州大学

 本文を丹念に読んで、設問条件に沿って解答をつくる、という基本的な読解力・記述力をつけるには適した教材となる。3年次に文系の中位以上の生徒を相手に、時間の制限をゆるくして取り組ませると教育的。他方、下位層にはつらい問題になるため、下位層を含む教室での使用には工夫が必要となる。

 教材としてではなく受験という場面で見た場合、制限時間に対して解答すべき分量が多く、受験者にとってはなかなか苦しい問題。高度な思考力・表現力というよりは、高い処理能力、妥当な思考力・表現力をこそ求めているといえる。2018年度入試では現代文で漢字の問題がすべて削られたが、これが今度どうなるのか、意図は何かは現段階では不明。

 

広島大学

 特段難問ということはない。現代文は一貫して素材文は硬派ではあるが、読み・解き慣れていれば設問条件自体は詳しいので難しくは感じないと思われる。古典については直近では複数の素材文を参照して解くといった、ある面新テストとの関連性もうかがわせる傾向が散見される。広島大学は高大接続改革のうち、理数分野で推進委託を受けており、国語はそこからは外れているが、大学全体として何らかの志はあるのかもしれない(教育学部も西日本の名門といった風情があるし)。

 

岡山大学

 いわゆる評・小・古・漢という国語オールジャンルの構成で、教材として取り上げやすい。評論は他分野と比べて簡単すぎることがしばしばあるため、低学年時の教材として用いるとよい。テキストをよく読み、傍線付近の該当箇所を拾って答案をつくるというという初歩の作業の練習になる。小説は素材文は親しみやすいこともある(重松清など)が、小説という必ずしも論理立った展開のないものを論理的に解くということについて、わりと研究された良問が多い。古典については広大と同様の傾向がある。評論は置いて、後の三題については同難度付近の国立大学対策として充分適している。

 

熊本大学

 現代文がいわゆる偏差値ランクからかけ離れて難度が高いことでエリア内の同業者にはまずまず有名。ただし近年は設問条件も増え、いくらか答えやすくなっている。また、80字前後の記述や抜き出し、記号等、取り組みやすい問題も導入されつつある。以前の問題に親しんできた者からすれば「日和った」とみなされても仕方ない。

 2018年度入試は上記の傾向が顕著に出て、例年に比べて易しかった。ただし、0点答案は出にくいが、他方満点の答案を書くには高いハードルがあり、本文全体に目配りして、解答の条件を自分で見定めるという点では依然としてハイレベルの問題といえる。九州大学と違い、こちらは古典とあわせても充分な解答時間があり、受験者はじっくり取り組むことができる。国公立大学の二次試験の問題にはそうあってほしいところ。

 古典の問題は、数年に一度読解力、思考力を問う問題は出るが、根本的には基礎基本の理解により対応できる問題。出典についての出題者の目配りも甘く、同一エリアの他大学で過去数年に出題されたもの、問題集でわりと定番の出典等がある。以上の点において、低学年の生徒に「今やっていることが(余得も含めて)大切」ということを知らしめるのに適している。センターテストと違って人物関係が複雑で読み取りにくい類の古文もあまり出題されない。どちらかといえば、ざっと内容をつかむことは易しいが、設問に答える際に注意を要するような問題が多く、今後もその傾向は続きそうである。

 

 

 以下、上記以外の顔ぶれから、項目毎に短評。

 

〇学力上位層の鼻をへし折るのに適した問題

 ・京都大学(全般)

 ・東北大学(古典)

 ・神戸大学(古典。ただし年度による。)

 

〇地方国立大~旧帝大の学力層を相手に、力を伸ばすのに適した「教育的」な問題

 ・筑波大(全般。特に小説。)

 ・千葉大(全般。現代文はユニークな問題もあり。)

 ・金沢大(全般)

 ・新潟大(現代文)

 ・名古屋大(全般。特に古典は地方国立大の上位互換の感あり。)

 ・大阪市立大(現代文。古典は基礎力養成寄り。)

 ・神戸大(現代文)

 

〇基礎固めをしていくのに適した問題

 ・信州大(ジャンルも揃っており、地味に手堅く解くことの大事さが実感できる)

 

〇新テストに関連した問題

 岩手大学の現代文の一部(第4問)。これについては近年に限らず、高大接続改革が本格的に話題になる以前からの取組。イメージとしてはいくつかの大学で実施されている小論文や総合問題の一部のような感じ。それを国語という教科の枠内で問うている。複数の資料をもとに、設問の条件に従ってまとまりのある記述をする問題。しかし解答の方向性は明確になっており、恐らく採点、評価ともにあまりぶれは生じないという、文科省が新テストで実現したがっている類の問題が出題されている。その意味において、他大学国語の入試対策練習題としては向かない(独自性が強いため)が、今後の国語の授業、テストづくりについての参考にはなる。